日本YA作家クラブ発足記念トークセッション『YA〜大人と子どもをつなぐ本たち』 レポート

INDEXへもどる / イベントレポートへもどる

  

報告・梨屋アリエ 2009年 5月31日

「トークセッションを終えて」 コメント・石崎洋司さん 金原瑞人さん 令丈ヒロ子さん

2009年5月16日 ジュンク堂書店池袋本店にて、日本YA作家クラブ発足記念トークセッション『YA〜大人と子どもをつなぐ本たち』 が、代表世話人である石崎さん、金原さん、令丈さんと梨屋の四名により、開催されました。

定員40名のところ60名近いお客様にお集まりいただくことになり、会場となる喫茶コーナーに、椅子をたくさん並べていただきました。

  

資料として、ホームページで公開している「日本YA作家クラブ」全会員のYA作品のリストと、記念フェアの本のリストを、ジュンク堂書店様から、ご来場いただきました皆様に、配布していただきました。

梨屋が口火を切る係。ということで、最初だけ原稿を用意していきました。
「それでは、はじめさせていただきます。本日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます。
「日本YA作家クラブ発足記念トークセッション」『YA〜大人と子どもをつなぐ本たち』。
本日のねらいは、まず、演題にありますように、今年発足しました「日本YA作家クラブ」を皆さんに知っていただくこと。
そして、YA-ヤングアダルトとよばれる本たちと、皆さんが、もっともっと仲良くなるれるように、わたくしたちの それぞれの思いをお伝えしたいと思います。
本日のお話を参考にしていただいて、より多くの方が、YAと出逢い、 仲良しになるチャンスが持てますように、みなさんにもお手伝いをしていただきたいと思います。
さて、本日の流れですが、
最初に、会の発足の経緯や活動内容など、「日本YA作家クラブ」についてのお話をします。
次に、記念ブックフェアのお勧め本リストにからめて、それぞれのYA観について、とか、 「日本YA作家クラブ」に期待してること、などなど、お話をしていきたいと思います。
最後に、質問の時間をお取りします。
それでは、さっそく「日本YA作家クラブ」の発足の話から。世話人がなぜこの四人なのかという、謎が解けます。
言い出しっぺは、私でした。YAの会があればいいのに、とずっと思っていたんです。
ちょうど、石崎さんと、公募ガイド社のYA文学短編小説賞の審査の仕事を 一緒にさせていただいているので、相談してみようと思いまして、メールで相談したのがはじまりです。……」
と、石崎さんに続きを引き継いでお話ししていただき、令丈さん、金原さんとお話をしていただきました。
発足の経緯につきましては、会報【御挨拶編】をご参照ください。

 YAの起源について、石崎さんと金原さんがトーク中。
写真の左から、金原さん、令丈さん、梨屋、石崎さん。

次に、記念ブックフェアのお勧め本リストにからめて、どのような基準で選んだのか、や、それぞれのYA観について、話しました。
次に、「日本YA作家クラブ」に期待してることや、これからやってみたいこと。
石崎さんが提起したのは、現在、日本の児童書の賞は、大人が選んでいるものばかりで、子どもやYA世代の読者の声が聞こえていないこと。例えば、フランスの高校生が選ぶ「高校生ゴンクール賞」や海外の読者の賞のように、日本でもそのような活動ができないか、など。会場にいらっしゃったヤマネコ翻訳クラブの方から、海外の賞についてご説明していただきました。
(詳しくは、このページの下段の各氏のコメントをご覧ください)

最後に、軽いお話。「もしも、みなさんがいま、平成21年の中学生だとしたら、何をしたいですか。なにをしていると思いますか?」
四人の特色がよく出ている回答になりました。令丈さんのデビュー作にも触れていただき、楽しいお話がきけました。詳しくは、ここには書きません。会場にきていた人だけのお楽しみです。

会場からの質問では、創作法についてや、普段子どもと触れ合う機会があるのか、など。

お開きの言葉は、金原さんにお願いしました。(梨屋は、最初の言葉しか考えてなかったので……)
その後、サイン会をいたしました。お客様に「楽しかった」と言っていただき、ホッとしました。学校などに講演に来ていただきたいとの声も、いただきました。(呼んでいただければ、予算にかかわらず、行きますヨ!)

地域の書店さんや図書館関係の皆様には、地元の作家・翻訳家さんをどんどん活用して、YAのPRをしていただきたいと思います。

  

トークセッションを終えて。

石崎洋司さんのコメント

 当日は、思いがけずたくさんの方に来ていただいて、ありがとうござ いました。
 ぼくが、このトークを通じて、そして、このクラブでやりたいなと 思っていることを、ひとことで、そしておおげさにいうと、「読者民主主義を確立しよう!」ということです。
 ぼくは児童書を中心に執筆活動をしています。「民主主義」というと、児童書の書き手の団体は、「反戦」とか「反核」とか、「子どもたちを戦場に送るな〜」とか、「憲法九条を守ろう〜」とか、そういうことばかりなんです。でも、それは児童書の書き手じゃなくても、そうだ ろうと思います。
 わざわざ児童書の書き手として発言・行動するなら、そういうことじゃなくて、子どもの読者に読書の主権を与えようよと、いいたいんですね。児童書なんですから、子ども読者にむかって書いている。だから、どの作品がどう面白いかの判断も、子ども読者が決めるべきで、いい大人がムキになって「こっちの方が文学的〜」とか「名作も読め〜」なんて、実に大人げないな、と。
 でも、児童書にはそれなりの歴史があるので、これはこれで大変。いろいろな考えの方がいらっしゃいます。それなりの「構造」も出来てしまっています。実際、このコメントを読んでいる方の中にも、「そんなこといってもさ〜」って、思われてる方もいるでしょう。
 だったら、定義も含めて、未だジャンルとして未確立のYAでは、いまのうちになんとかしておきたいな、と思ったんです。
 たとえば、まずティーンズ、特に読書嫌いの人たちにむけて、「それはたまたま面白い本に出会ったことがないだけかもよ。ほら、こんなにいっぱいあるんだし、どこかにぴったりはまるのがあるよ〜」と言えるような世界を、学校の図書室や、公共図書館に用意してあげたい。書店さんは、商売があるので、なかなかむずかしいだろうけれど、でも、そんなコーナーが常設されるようになったらいいとも思います。だって、ラノベはあっち、文庫はこっち、単行本は作家名別にむこうのほう、では、最初から読書好きで書店を徘徊するような人しか、おもしろい本に出会えないじゃないですか。
 新人作家発掘のための賞は、その筋の大人が選ぶとしても、出版された作品について、「今年はこれがよかった〜」って、ティーンズがティーンズに勧められるような賞ができたらいいと思いますしね。
 で、そういうことを脇役として、整備(?)してあげるのが、大人の役目なのではないかなぁと。一般文芸書は大人が大人にむかって書いているのだから、乱暴な言葉を使えば、読まれようが、読まれなかろうが、知ったことではない。純文学の初版が、二千部だの三千部だのと聞いても、「だってしょうがないじゃん、読む人少ないんだから」って、いってもいいと思います。村上春樹さんの新刊が二十五万部スタートでも、「へー、すごいね〜」で済ませていいと思います。
 でも、大人が児童にむかって書く児童書や、大人がティーンズにむかって書くYAでは、それは無責任だろうと。彼らにむかって本を作っている以上、送りっぱなしではいけない。彼らを置き去りにして、大人だけで本を語るのはいけない。それは無責任というだけでなく、むしろ滑稽ですらあると思います。
 彼らが積極的に作品にむかえる環境作りをしてあげる、それも彼らを主役にして。
 それが書き手、紹介役の大人たちの責務じゃないかなって考えるんです。
 そんな想いで、トークセッションに参加しました。
 どうか、一人でも、ご賛同いただける方がいますように。
 

金原瑞人さんのコメント

 5月16日ジュンク堂での、世話人4人のトーク
 まずは梨屋さんが、この会の成り立ち、その他を説明。微に入り細をうがつ、名解説ぶり。ずいぶん前から用意したらしいメモを見ながら、最初から最後まで、徹頭徹尾、135%緊張した風情がまたかわいい。とても好感の持てるリーダーぶりだった。
 そのあと、石アさん、令丈さんのご挨拶と、所信表明。
 以上、3名の作家さんの言葉をききながら、内心、かなり青ざめてしまった。三人文殊とはいわないけど、3人とも、かなりマジなのだ。そういえば、たまに作家さんとのトークがあったりしてよく思うのは、みんな小説や詩をとても切実なものとして受けとめているということ。常にいい加減な金原は、今回も、3人のメッセージをききながら、ちょっと居住まいを正してしまった。
 が、そのわりには、金原の話はどこか間が抜けていて、「YAってなんだろうな……」という煮え切らない話をしばらくして終わってしまった。 作家さん3人の真摯な態度はとても感動的で、いい加減な金原も少しくらいちゃんとやらなくちゃ、という気になってきて、途中、いきなり割りこんで、「アメリカ、1970年代後半から、問題小説(problem novel)というのが登場してきて、それを最初に日本で正しく伝えようとしたのがコバルト文庫の翻訳物で……」などと気負って話し始める。
 そのあとは、ざっくばらんに、思うところを述べて、案外と4人とも馬が合うのか、喧々囂々侃々諤々の論争になったりせず、無事、トークを終えることができた。
 じつは、冗談でもお世辞でもなく、しっかり「YA」、考えなくちゃという気になってしまったのが、自分でもいささか怖い。 学校や図書館や書店での「YA」の普及は大いに望まれるところなんだけど、なかなか難しいのも現実らしく、このトークのあと、書店員の方からこんなメールがきた。
  書店によって、システムが違うと思いますが、うちの場合は、たとえば江國香織を置きたくても、物によっては文芸コードになるので、児童売場で何冊売ろうが、文芸の売上になります。ここのところが難しくて、同じ店だからいいじゃん!と思われるかもしれないんですけど、ジャンルの売上が悪いと、人件費を減らされたり、最悪の場合、売場面積の縮小なんてこともありうるんです。だから、みんな自分のジャンルの本を一冊でも多く置いて、売ろうと必死です。児童書はもとから、そんなにたくさん売場がもらえるジャンルではないし。
 あと、「YA」といった場合、難しいのは何を置くのかです。最近は重松清が受験問題に使われるので、児童書売り場で聞かれることが多くなりました。文芸と文庫を案内すると、子供向けの重松清はないのかと言われます。

 ううん、たしかに難しいなあ。
 ただ、今回のトークで、会の方向性も多少は見えてきたような気もするし、ともあれ、成功、ということにしておきたい。
 このあとの飲み会、石アさんのリードでとても楽しかった。しかし、それにしても、あの店はいいなあ……! 池袋のしーくれっとすぽっとです。

令丈ヒロ子さんのコメント

 予想を上回る大勢の方に、来ていただけて、うれしかったです。 そして、改めてYAというものに関心を持たれている方の多さを感じました。
 YAについてどんな印象があって、どうあってほしいと思っているのか?
 世話人四人がそれぞれのYA観をトークすることにより、YAへの思いも、アプローチもこんなにちがうんだなとおどろき、面白く思いました。 そして、今後、いろんな書き手のみなさんや、翻訳者のみなさん、編集者などの作り手側の人のYA観を聞いてみたいと思いました。 また図書館や書店さんなど、送り手側のYA観、読者の方々のYAに対するイメージや求めるものなど、聞いていけたら……と思いました。 やはり、人の意見や気持ちを聞くこと、また自分の意見を聞いてもらうことは、おもしろいです。 そこが始まりで、そういうことがなければ、ものごとは動かないのだなとも改めて感じました。
 あと、世話人それぞれがYAという分野で、こういうことができるのではないかというアイデアを多く持っていたことも、心躍ることでした。 いきなり、たくさんのことはできませんが、この会で、できることから少しずつ、やっていきたいと思います。
 また、会員のみなさまに、何かの形でご助力をお願いすることもあるかと思います。 (現在は会員皆様のお勧めYA本アンケート実施中ですね!お答えくださった方、考えてくださっている最中の皆様、お忙しい中ありがとうございます。せっかくの、現役YAの作り手ばかりが答える貴重なアンケートです。集計しましたら、アンケートの結果が世の中の役に立つように、いろいろ考え中です。)
またそのときは、どうぞ、よろしくお願いいたします。

 

 今回は、若手(笑)のワタクシ、梨屋が司会を買って出たわけですが、限られた時間の中、話したいことがたくさんあって、なにをどうつなげて四人で話していったらいいのか、考えているだけで、精一杯でした。
 石崎さんも金原さんも令丈さんも、トークはベテランですので、あがり症の私の力の足りないところはカバーしていただきました。石崎さん、金原さん、令丈さん、ありがとうございました。
 会場では話すことができなかったのですが…。
 学校の読書運動や図書館の整備がすすめられているのに、ブックスタートや読み聞かせの運動にくらべたら、10代の読書に対して、大人はあまりにも関心が薄いのではないかと思っていました。10年後20年後の人生の素地を作る大切な時期に、未来への手がかり足がかり、そして友だちとなるような本に出会って欲しい。 もちろん、誰が何を読んでもいいのですが、その何かに出会うためには、それなりの環境が必要だろうと感じます。 おせっかいのようですが、若い読者に向けて書いているという自負がある人ならば、若い読者に対してさまざまな思いを持っているのだと思うのです。自分の本だけ売れればいいという態度では、読書の魅力は広がらずにやがては消えてしまいます。いま本の世界に関わっている人たちは、本の魅力や存在意義を少なからず知っている人たちです。若い読者に、その思いを少しずつでも伝えてみたいと思いませんか。この会の活動を、一人でも多くの作家や翻訳家のご賛同をいただき、仲間を増やしていければと思っています。
 梨屋の期待するところとしましては、読書の推進活動だけでなく、これからYAを書こうと考えている作家志望の皆さんや翻訳家を目指すみなさんにも、この会が良い刺激になればいいなぁと思っています。素敵なYA作品をYA世代に届ける仲間が増えていきますよう、期待しております……。
 お忙しい先生方を巻き込んで、編集者のかたから怨まれるのではないかとビクビクしておりましたが、関係者のかたからもあたたかい言葉をかけていただき、ほっとしています。
 試行錯誤でスタートしたばかりですが、今後とも、日本YA作家クラブを、よろしくお願いいたします。

  

INDEXへもどる / イベントレポートへもどる