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「日本YA作家クラブ」会報【臨時便・エッセイ編】2010年2月20日発行

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「日本YA作家クラブ」会員の皆様

 

 会報の「リレーエッセイ」の第一回、

石崎洋司さんの『YAの「偏り」について』をうけて、

金原瑞人さんからエッセイをいただきました。

次の定期便まで間がありますので、臨時便で配信させていただきます。

このエッセイは、会のホームページでも公開いたします。

 

 

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◆エッセイ

『アメリカが孤児なら、イギリスも孤児。そして今の日本は?』金原瑞人

 

◆第三回会報へのご返信状況 

 

 

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◆エッセイ

 

『アメリカが孤児なら、イギリスも孤児。そして今の日本は?』

                         金原瑞人

 

 

 孤児の文学という話が出てきたので、それを受けてちょっと書い

てみようと思う。

 というのも、アメリカが伝統的に孤児にひかれる文学なら、イギ

リスもまた伝統的に孤児にひかれる文学だからだ。

 たとえば、イギリスでは18世紀になって初めて近代リアリズム小

説(novel)が誕生するんだけど、そのときよく引き合いに出される

のが『ロビンソン・クルーソー』(デフォー)『パメラ』(リチャー

ドソン)と『トム・ジョーンズ』(フィールディング)。このトム・

ジョーンズが孤児、というか捨て子で、大活躍する。

 そして19世紀になるとそれこそ孤児の小説が続々と登場する。ディ

ケンズの『オリヴァー・ツィスト』の主人公オリヴァー、『大いなる

遺産』の主人公ピップ、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』

の主人公ジェイン・エア、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の主人公

ヒースクリフ、さらに20世紀になってはサマセット・モームの『人間

の絆』の主人公フィリップ・ケアリ。

 またイギリスで最初の児童文学といわれているキングズリーの

『水の子(ども)』(1863年)の主人公トムも孤児だし、〈シャー

ロック・ホームズ〉のシリーズで大活躍する少年団「ベイカーストリー

ト・イレギュラーズ(ベイカー街遊撃団)」もストリートチルドレン

で、孤児が多い。またいかにもイギリス的な児童文学を書くので有名

だったレオン・ガーフィールド(19211996年)の作品にも孤児が

よく登場する。

 ガーフィールドが日本にきたとき、「なぜ、孤児の出てくる作品が

多いのか」とたずねたら、「ひとつの理由は動かしやすいからだ」と

いう答えが返ってきた。

 なんでイギリス文学に、それも後々まで読みつがれている作品に

孤児が多いのかについては、いろんな人がいろんなことをいっていて、

よくわからない。ただ、アメリカに限らず、イギリスも孤児が主人公、

あるいは重要な登場人物の作品はとても多い。

 まあ考えてみれば、人類の歴史が始まってから中世、そして近代が

始まるまでは、孤児なんてごろごろいたわけで、ごく普通の風景だっ

た……というか、そもそも子どもなんて生まれては次々に死んでいた

わけで、それは第二次世界大戦あたりまであまり変わらなかったよう

な気がする。たとえば、「ちくま」2010年2月号で、なだいなだが

「人間、とりあえず主義 少子化対策ってなんだ」にこう書いている。

 

 ぼくの祖父母の時代は、現在の中学生くらいの年齢で、親の命令で

結婚した。学問するとよい嫁にならないからと、小学校にすら行かせ

てもらえなかった。よい嫁とはなんだったろう。亭主関白な夫のもと、

子どもを十人も生む嫁だった。どうせ半分は子どものうちに死ぬとい

う状況だったし……

 

 子どもも死ねば親も死ぬ、子を亡くす親も多ければ、孤児も多かっ

た。当然、小説にも登場する。

 ところで、いまひとつ気になっているのは、子どもの死亡率が激減

して、平均寿命がいきなり高くなってしまった現代の日本、孤児を

主人公にした小説が書けるかということ。もちろん書けない……こと

はないけど、とても書きづらいと思う。とくに子どもの本は書きづら

いかもしれない。

 去年『YAセレクション みじかい眠りにつく前に A昼下がりに読み

たい10の話 』(ピュアフル文庫)を編んだとき、ぜひ入れたいと思っ

たのが川島誠の短編「愛生園」。現代において孤児を登場させるには、

これほどまでの意志と覚悟と表現力が必要なのかと、読み終えたとき

愕然としたのをよく覚えている。

 かつて、イギリスでもアメリカでも、孤児は悲惨で、社会からはじ

き出されていたぶん自由だった。しかし、現代の日本において、孤児

はやはり(少なくなったぶん余計に)悲惨かもしれないし、不自由だ

と思う。そのうえ、今の社会は孤児を隠そうとする。そんな孤児を

扱ったヤングアダルト小説は今後出てくるのだろうか、もし出てくる

としたら、どんな形でなのだろうか。

 さあ、日本の作家、書けるなら書いてみろよ、といってみたい……

と思ったんだけど、考えてみたら、桜庭一樹の『私の男』も、三浦

しをんの『光』も主人公は孤児だった。児童文学でもYAでもない

けど。

 

 

 

 

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◆第三回会報へのご返信状況

 

現在の会員33名中、18名様からご返信をいただいております。

ありがとうございました。

 

また、励ましのお言葉なども、ありがとうございました。

 

会報がお手元に届いているかの確認にもなりますので、今回、

リスト等の更新がない会員様も、ご返信いただきますよう、

よろしくお願いいたします。

 

 

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「日本YA作家クラブ」会報 2010年2月20発行

代表世話人。石崎洋司、金原瑞人、梨屋アリエ、令丈ヒロ子(敬称略五十音順)

 

日本YA作家クラブ

http://jya.iinaa.net/

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連絡係 ありりん